Dr James L Januzzi
Cardiologist, Massachusetts General Hospital. Prof of Medicine, Harvard Medical School
 

FAQ:複数のシナリオにおけるNT-proBNPの解釈

複数のシナリオにおけるNT-proBNPの解釈
  • 心不全患者ではヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)について、BMIで層別化したカットオフ値を考慮すべきでしょうか?

    Dr Januzzi:  NT-proBNPについて、BMIで層別化したカットオフ値は推奨されません。その理由は、50歳未満、50~75歳、75歳超の方に対する、年齢で層別化したアプローチ(450 pg/mL、900 pg/mL、1800 pg/mL)が、BMIの差(の大部分)に対応しているからです。若年の患者さんほど体重が重い傾向があるため、カットオフ値は若年の患者さんの方が低くなります。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)については、肥満域の患者さんではカットオフ値を半分にすることが推奨されます(つまり50 pg/mLまで下げる)。

  • ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が改善しても臨床エンドポイントが改善されないことについて、どのような見解をお持ちですか?

    Dr Januzzi: NT-proBNPは、分単位、時間単位で変化します。これまで、NT-proBNPが改善しても臨床エンドポイントが改善されなかった試験は、短期治療に関するものでした。例えば、Levosimendan(カルシウムセンシタイザー)を1週間投与するとNT-proBNPの低下は見られましたが、エンドポイントは1ヵ月後または6ヵ月後でした。問題は、この治療を中止した場合、NT-proBNPの初期変化では、1ヵ月または6ヵ月後のアウトカムを予測できないことです。これが予測因子か否か述べるには、同時点のNT-proBNPが必要です。つまり、NT-proBNPの初期変化は、Levosimendanなどの治療を継続する場合のみ重要となります。アリスキレン(直接的レニン阻害薬)を検討したATMOSPHERE試験のデータでは、NT-proBNPのわずかな低下が示されました。わずかな低下は、わずかなベネフィットと関連していました。駆出率低下を伴う心不全では、NT-proBNPの変化がかなり信頼できる予測因子となります。

  • 別の機関から得たヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の結果は、移行可能ですか?

    Dr Januzzi: NT-proBNPとBNPが初めて世に出た当初は、全てのNT-proBNPアッセイが同じ抗体に基づいていることから、基準範囲に関しては非常に類似していました。現在市場に出ているBNPアッセイは、異なる捕捉抗体および検出抗体に基づいているため、全く異なります。一方、提供される結果という点で言うとごく最近、NT-proBNPアッセイは若干変わりつつあります。重要なことは、検査機関ごとに異なる結果が提供され得ることを認識し理解することで、ご利用の検査機関と他の検査機関ではどのように異なるのかを理解することが大切になってきます。

  • 駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者と駆出率の低下を伴う心不全(HFrEF)患者とでは、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)のカットオフ値は異なりますか?

    Dr Januzzi: HFpEFに対して異なるカットオフ値を用いることは推奨されていません。しかし、駆出率の保たれた心不全では、ルールインの閾値を下回る可能性が高いことが認識されています。300 pg/mLがルールアウトの値であり、300 pg/mL~1800 pg/mLがグレーゾーンになります。駆出率の保たれた心不全患者はグレーゾーンに属する可能性が高いですが、グレーゾーンの範囲では正常とはいえません。そのため、グレーゾーンの患者さんを診察する際は、依然として心不全と診断する可能性が非常に高くなります。実際には、臨床で正確な病歴聴取と身体診察を行い、測定値の解釈に役立てる必要があります。

  • ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)は小児患者さんにも利用できますか?

    Dr Januzzi: 新生児あるいは生後約1~2日の乳児でNT-proBNPを測定すると、5000 pg/mL~10,000 pg/mLの範囲になります。これは、周産期、臨月、分娩時に乳児の心拍出量は高心拍出状態となり、体液過剰になる事実と関係しています。乳児はこのほか、出生後数日で利尿により体重が約25%減量します。したがって、生後数日の新生児のNT-proBNP値は、心不全の範囲になることが非常に多いです。ただし、生後1週間から2週間以内には極めて低い値まで低下します。最初の期間の後、数値を解釈するために小児集団で検査が推奨されるのがこの期間です。NT-proBNPが低下しない場合、動脈管開存症、先天性弁疾患または複雑な先天性心疾患などで、体液過剰や圧過負荷の状態にあることが示唆されます。乳児が幼児や前青年期になる頃には、NT-proBNP値は十分に解釈できるようになります。

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