このローカルストーリーシリーズは、Koichi Node博士への7部構成のビデオインタビューで構成されています。
Q1: 2型糖尿病患者の心血管疾患に関して、日本の状況とアンメットニーズについて教えてください。
まず、日本を含めたアジア諸国の中では、食生活の欧米化、生活習慣の欧米化で、糖尿病や肥満の方が増えています。 従来、日本の疾患構造としては、心筋梗塞が少なく脳梗塞が多かったのですが、先ほど言った肥満の増加や糖尿病の増加、食生活の変化によって、大血管障害を含む心筋梗塞等の発症が増えています。糖尿病がそうした心筋梗塞や動脈硬化を増加させているという現状がございます。
一方で、糖尿病の方の心筋梗塞は、高血圧や高脂血症の動脈硬化に比べると、かなり進行した血管障害が多いといわれています。具体的には、糖尿病が10年以上経過すると、血管平滑筋の硬化、血管の石灰化によって、かなり硬い動脈硬化が起こってきます。だから、われわれが糖尿病の方を診るときには、既に冠動脈に石灰化が起こっているような心筋梗塞や狭心症を診るケースが多いのです。 こういう場合の血管硬化、動脈硬化は、なかなか厳格な血糖管理によって早期には改善しないといわれています。高脂血症による動脈硬化、不安定プラークの形成等は、例えばスタチンによってLDLコレステロールを低下させると、比較的早期に、半年や1年ぐらいでイベント抑制効果が見られます。
ところが糖尿病の場合には、例えばHbA1cを低下させるということで厳格に血糖を改善しても、恐らく10年以上、イベント抑制効果が発揮されるには時間がかかるのです。これはDCCTやUKPDS、ACCORD試験等でいわれていることで、レガシー効果といって、15年ぐらい、イベント抑制効果を評価するには時間がかかるといわれています。
こういった問題点があるということで、一つの方法として早期からの介入がいわれています。そのためには、早めに動脈硬化性疾患を発見する必要があります。従って、糖尿病の方においては、狭心症や動脈硬化の早期評価が必要であるということになります。これが一つの糖尿病における循環器疾患の管理の問題です。
2点目に、糖尿病の場合の心筋梗塞の場合に問題になるのは、症状がないということなのです。
糖尿病の方においては、神経障害が併発します。神経障害というのは、三大合併症による末梢神経障害です。そうすると、無痛性の心筋虚血が起こります。特に高齢者のケースに多く、病変があっても症状がないので、なかなか発見されにくいのです。これが2点目です。
だから症状に頼るのではなく、他の方法で、糖尿病の場合の動脈硬化を早期に発見する必要があると言えます。これが現在の大きな糖尿病における循環器疾患の評価や管理における問題点であろうと考えていいと思います。
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最新情報を入手Q2: 日本循環器学会/日本糖尿病学会が合同でコンセンサスステートメントを作成した経緯と理由について教えてください。
従来、糖尿病の三大合併症は、網膜症、神経障害、腎症という臓器障害でした。これはどういう合併症かというと、細小血管障害なのです。すなわち、直径数百マイクロの血管障害が大きな合併症といわれていました。
ただ、最近は心筋梗塞や脳梗塞等のマクロアンギオパチー(大血管障害)が増えているということで、三大合併症に加えて大血管障害を評価する必要があるわけです。そうすると、心筋梗塞や狭心症を診療している医師は循環器内科医です。あるいは脳梗塞を診ている医師は、神経内科や脳外科です。従って、糖尿病の方の大血管障害を早期に評価するためには、循環器内科医や脳神経内科医の協力が必要であるということで、臨床の場では両方の診療科の協力が必要になります。
一方で、循環器疾患を持っている方に対して、血糖の管理が有効であることは間違いありません。従って、循環器患者さんにおいて、糖尿病の治療をする上でも専門の糖尿病内科医の協力・連携が必要であるということで、糖尿病における循環器疾患の評価・管理、それから循環器科における糖尿病の管理、両方向から両診療科の協力が必要であるということは当然です。
一方で、糖尿病内科と循環器内科は、内科疾患の中でもかなり大きな分野を占めています。両診療科とも時代の変遷とともに占める割合が大きくなっています。
両診療科とも時代の変遷とともに占める割合が大きくなっています。ところが、両診療科、両学会が連携をしてきたかというと、特に学会は、正直申しましてそんなに一緒に何かをしてきたということはないわけです。循環器学会からは、多くのガイドラインが出されています。例えば心不全のガイドライン、心筋梗塞のガイドライン、不整脈のガイドライン、さまざまなガイドラインをわれわれは発行していますが、今まで糖尿病学会が協力としてそこに参画したことはなかったわけです。一方で、糖尿病治療ガイドラインも、糖尿病学会が出されている大きなガイドラインですが、実は糖尿病学会のガイドラインには、循環器関連の学会、例えば高血圧学会や動脈硬化学会は協力学会として参画していますが、循環器学会は一度も入ったことがないのです。それぐらい両学会の連携がなかったのが現実でした。
私自身、日本循環器学会の予防委員長として、予防の担当になりましたが、恐らく高血圧の治療や高脂血症の治療に関しては、かなり循環器医が関与して、血圧の管理やコレステロールの管理は、従来から比べるとコントローラブルになってきました。一つは薬剤のおかげで、ARBやACE阻害薬、カルシウム拮抗薬等で、かなり薬の選択肢が増えたということがあります。高脂血症に関しても、特にスタチンの使用が増えたことや、コレステロール吸収阻害剤の使用が増えたことで、ある程度ガイドラインに準拠した目標値を達成することができるようになってきました。
一方で糖尿病の治療に関しては、5年ぐらい前までは、SU剤やインスリン製剤、α-GI、グリタゾン等でHbA1cを目標まで下げるこ
とは難しかったという現実があります。そういう中で、循環器病の予防をしっかり図るためには、両学会の連携が必要ではないかと考えたのです。そこで、まず日本循環器学会と日本糖尿病学会の合同委員会を作成しようということになりました。
日本循環器学会からは、最初は私と室原先生、岡山の伊藤浩先生の3名。 糖尿病学会からは、京都大学の稲垣先生、熊本大学の荒木先生、東京大学の植木先生の3名が加わって、6名で合同委員会がつくられました。
まず、そこで何をするべきかというと、欧米ではADA、AHA、ACCの合同ステートメントが出されています。ESCの方でも、ESCとEASDの合同ステートメントや合同ガイドラインがかなり頻回に出されています。 翻って日本を見ますと、JCSとJDSの合同ステートメント、合同ガイドライン等がなかったので、まずここから始めようということで、このステートメントを作ることになったわけです。ガイドラインを最初から作るのはハードルが高いのではないかということで、まずはステートメントという形で、JCSとJDSの合同ステートメントを作ろうというのが今回の経緯です。
Q3: このコンセンサスステートメントに関して、特に強調してお伝えしたいことについて教えてください。
まずは糖尿病患者さんの循環器疾患をどう評価するか、どう診断するかということになります。従って、三つのパートに分けたのですが、糖尿病患者さんにおいて動脈硬化病変をどう評価していくのかということです。これにはまず症状から始まって、心電図、画像診断です。特に今回強調したのは、無症状であっても年に1回は心電図を撮っていただくこと、年に1回はしっかりと胸部症状等を聞いていただくことを提起しました。
もう一つは、例えば糖尿病の方で、プラス高血圧やCKDや家族歴があれば、できれば血管機能検査を評価いただくことを提起しています。血管機能検査に関しては、PWVやCAVI、ABIという検査を提起しています。PWVやCAVIは、血管の硬さを見る検査で、これで評価を頂きます。ABIは末梢の閉塞動脈硬化症を評価する検査です。こういうものを測って、例えばABIであれば、0.9未満であれば循環器内科に紹介いただこうと書いています。
こういうものを測って、例えばABIであれば、0.9未満であれば循環器内科に紹介いただこうと書いています。
もう一つは、単純の冠動脈のCT検査をしていただくことです。造影の冠動脈CTがよく最近用いられますが、造影剤をかなり使うことと放射線被曝が大きいことから、これをスクリーニングで使うことは難しいと思いますので、まずは単純の冠動脈CTを撮っていただこうと書いています。例えばCTでは、Agatstonスコアで100点以上であればハイリスク、400点以上があればベリーハイリスクということで、これは石灰化スコアですが、石灰化のグレードによって循環器内科に紹介いただくよう書いています。こういった血管機能評価や単純CTで異常があれば循環器内科に紹介いただいて、造影CTや運動負荷試験、シンチをしてもらうというスキームを分かりやすく整理しています。
こういった血管機能評価や単純CTで異常があれば循環器内科に紹介いただいて、造影CTや運動負荷試験、シンチをしてもらうというスキームを分かりやすく整理しています。
もう一つ、特に今回強調したのは、糖尿病の方の心房細動を見つけていただくことです。なぜこれが大事かというと、心房細動を放置しておくと、脳梗塞の大きなリスクになります。従って、糖尿病の場合で心房細動が見つかれば、PAFであってもCHADS2-VAScの1点、2点になりますので、抗凝固療法の適応になります。
だから1カ月に1回、1分間しかない発作であっても、きっちり抗凝固療法をしていただかないと、極めて塞栓源が大きい血栓なので、致命的な、あるいは後遺症が残る脳梗塞を起こすので、それをきっちりと評価いただいて抗凝固療法をしていただきたいと提案しています。 もう1点は、糖尿病の方で頻脈性のAF(心房細動)がある場合、これを放置しておくとほとんど心不全になっていくのです。だから適切な心拍コントロールが必要であるということで、抗不整脈薬やβブロッカーを使って、きっちりとレートをコントロールしていくことになります。
だから、PAFであれ心房細動が見つかれば、循環器内科医に紹介いただきたいということを強調しています。そうしないと、脳梗塞や心不全が起こってくることになるわけです。
それが糖尿病の方における循環器疾患の評価のポイントです。
逆に循環器疾患における糖尿病の診断に関しては、京都大学の稲垣先生の担当でしたが、例えばOGTTを適切にしてIGTを評価すること、あるいは空腹時血糖やHbA1cだけでは診断できないような糖尿病を診断いただくことを強調しています。こういうところが一つのポイントかもしれません。
もう一つは、循環器内科と糖尿病内科の連携で、どういう病態であれば循環器医に紹介するか、逆にどういう病態であれば糖尿病内科の先生にお願いするかというお互いの紹介のポイントを第3章に書いておりますので、そこもポイントになるかもしれません。
Q4: 2型糖尿病患者の心不全に関して、日本の状況とアンメットニーズについて教えてください。
循環器疾患の現状のところでもお話ししたかもしれませんが、循環器病全体が増えています。ところが、心筋梗塞の発症は増えているけれど、心筋梗塞による死亡者数は減っているのです。なぜかといいうと、急性期の治療が進歩したからです。
PCIや急性期のPCPSなど治療が良くなっているので、急性期死亡は減っています。
ところが、心不全の死亡者数は増えています。それは、心筋梗塞の延命によって長生きする方が増えてきたことと、高齢者が増えているので、心不全による死亡率は増えているわけです。だから、日本人の死亡率を減らそうと思えば、心不全を減らさないといけないというのが現状なのです。
そういう意味では、心不全の死亡率を減らすということは、日本の医療にとっては大事なポイントになります。
もう一つ、心不全が増えている理由としては、高齢者が増えていることと心筋梗塞の延命が図られたことに加えて、肥満と糖尿病が増えていることだと思うのです。だから3点目は、糖尿の治療をしっかりする、肥満の是正をしっかりすることが、心不全の死亡率を減らし、循環器疾患の死亡率を減らし、ひいては日本人の死亡率を減らすという方向になると思うので、そういう観点からも糖尿病の治療は極めて大事なポイントになるわけです。
もう一つは、糖尿病の方は、心筋梗塞による心不全に比べて拡張不全が多いのです。これは恐らく高血糖がある、あるいはインスリン抵抗性があって高インスリン血症になる、あるいは血糖変動が顕著な症例においては、心筋細胞の肥大が起こります。
あるいは線維化が起こって、拡張機能障害が起こってくるわけですね。これが非常に大きな問題です。拡張不全というのは難しい病気で、診断が付きにくいのです。
だからついつい見逃されてしまい、拡張不全が知らないうちに収縮不全に移行することもあります。あるいは拡張不全のまま致死性不整脈を発症して、突然死することもあります。糖尿病の場合、この隠れた拡張不全をどう診断するかということになるわけです。
今回のステートメントにおいても、糖尿病の方の心不全をどう見つけるかということをスキームとして提案しています。
まずは、糖尿に限らず心不全の診断においてはそうなのですが、心不全というのは症候診断なのです。症状がある程度ないと診断が付かないということがあります。だから、まずはしっかりと問診を取っていただくことです。例えば、全身倦怠感、横になるとしんどい、夜間にトイレに頻回に起きる、前かがみになるとしんどくなる、そういう症状をしっかり聞いていただくことを強調しています。理学的所見としては、40歳以上でⅢ音やⅣ音が聞こえると異常であるとか、座って頸静脈が怒張しているとうっ血があるとか、そういう所見を書いています。
こういう所見が一つか二つあった場合にどうするかということです。
評価のポイントは、非専門医でも簡単に評価できることがポイントなのです。実は心不全の診断というのは、循環器内科医でも難しい部分に入ります。喘息が原因でしんどいのか、心不全が原因でしんどいのか、あるいはCOPDがあって呼吸困難があるのか、心不全が原因で呼吸困難があるのかというのは、循環器内科医でも難しい部分があります。できるだけ簡単な方法で診断を付けていく必要があります。
そこで、もし症状や疑いがあれば、血液のバイオマーカーを測ることを提案しています。
一つはBNPで、100pg/mL以上あれば疑う。もう一つはNT-proBNPが400pg/mL以上あれば疑う。この二つのバイオマーカーの値をきっちりと書いています。どちらかが超えていれば、循環器内科医に紹介いただくことにしているので、しっかりと心不全を見つけていただいて、早めから介入していただきたいということを、今回のステートメントには記載しています。
Q5: 2型糖尿病患者における心不全の予防という観点で、SGLT-2阻害薬の期待される役割について教えてください。
心不全の発症には、糖尿病の治療、血糖の管理が重要というお話をしましたが、一方で、糖尿病治療薬で心不全を予防する効果を持っている薬剤はなかったわけです。高血圧の治療に関しては、ACE阻害薬もARBもβブロッカーも利尿薬も、全てその薬によって血圧を下げれば心不全を予防できることが分かっています。スタチンも、心筋梗塞でスタチンを使えば心不全を予防できることが分かっていました。
一方で、糖尿病に関しては、全ての糖尿病治療薬で心不全を予防するエビデンスは全くなかったわけです。
逆にグリタゾンは、動脈硬化は抑制しますが、心不全の発症は増やすといわれていました。
インスリン等でも低血糖が起これば、それが原因で心不全が悪くなるといわれていました。糖尿病の治療をすることは心不全に良いといわれていながら、その方法が全くなかったのです。それを一変させたのがSGLT2阻害薬です。
これは歴史を変えたと言っていいと思います。まずEMPA-REG OUTCOME、CANVAS、DECLARE、全ての一次予防試験で、SGLT2阻害薬を使うと心不全の入院を抑制することが分かってきました。 一方で、既に心不全になっている方に対してどうかというと、DAPA-HF試験において、収縮不全の方にSGLT2阻害薬を使用すると、総死亡も減る、心不全も減ることが分かってきたわけです。DAPA-HFに関しては、糖尿病がある心不全と糖尿病がない心不全とで、全く同じ効果でした。
だから今回、一部のSGLT2阻害薬が、糖尿のない収縮不全において保険適用が通ったという経緯があるわけで。
一方で、拡張不全ですね。
HFpEFに関しては、今まで循環器領域で拡張不全は極めて大きな問題でありながら、拡張不全に対して有効な薬剤はなかったわけです。ACE阻害薬もARBもβブロッカーもARNIも、全てネガティブだったのです。それが3日前にEMPEROR-Preservedという大規模研究のプレスリリースがありました。
EMPEROR-Preservedは、拡張不全に対するSGLT2阻害薬の効果を検証する大規模研究でしたが、結果は、心血管死と心不全入院のプライマリーエンドポイントにメットしました。有意に下げたということが分かったわけです。何パーセント下がったかはまたISCで発表されますが、目的は達成されました。そうするとHFpEFに対して初めて有効な薬剤が見つかったと、これは循環器にとっては極めて大きなブレイクスルーになります。それぐらいのインパクトを持っているのがSGLT2阻害薬だと考えられます。
従って、このステートメントに関しても、これはDAPA-HFが出る前でしたが、糖尿病の方においてどういう薬剤を選択するかということに関しては、まずは生活習慣をきちんとすることが前提ですが、既に心不全を合併している糖尿病に関しては、SGLT2阻害薬をファーストラインで持ってくることを提案しています。
心不全以外は、CKDを合併する糖尿病も同じ選択です。心筋梗塞を合併する、OMI(陳旧性心筋梗塞)を合併する糖尿病においてもSGLT2阻害薬がファーストラインということを提案しています。もう一つは、隠れ心不全を想定して、BNPが100pg/mL以上、あるいはNT-proBNPが400pg/mL以上の糖尿病に関しても、SGLT2阻害薬をファーストラインということを提案しています。
恐らく世界中で、SGLT2阻害薬がこういったクライテリアでファーストラインに来ることを提案しているのは、このステートメントが最初だと思います。それからDAPA-HFの結果が出て、今回のEMPEROR-Preservedが出てきますので、あの提案自体は正しかったのだなと思っています。
Q6: 2型糖尿病患者における利尿ペプチド測定の推奨事項について教えてください。
こういうコンセンサスステートメントのポイントは、シンプルであることです。あまり詳しく難しく提案しても、読む方は混乱すると思います。今回は第1回のステートメントなので、BNPであれば100pg/mL、NT-proBNPであれば400pg/mLを気にしようと。これを超えていれば、循環器医に紹介いただく。循環器内科医もそれを受け取ればしっかりと見るということを、まず強調しようと思ったのです。細かく言えば、100pg/mL以上で100%心不全になるわけではないのですが、それはある程度割り切らないと、シンプルになりません。逆にNTが200pg/mLの場合はどうなのかということもありますが、まずは400pg/mLというところをきちんと認識してもらうことが目的だったのです。
恐らく今後は、NT-proBNPが125~400pg/mLのところはどうするのかということだと思いますが、それは疑いという感じでフォローアップをするという形になると思います。来年の秋ぐらいに改訂版を出す予定で、どういう記載になるか分かりませんが、治療に関しても、もう少し細かいスキーム、アルゴリズムをつくる予定にはしていますが、その段階でもう少しそういうところを考えていこうと思います。
従って、バイオマーカーというのは、先ほどからお話ししているように、誰が検査をしても同じです。
玄人でないと診断できない検査はなかなか広まっていきません。
誰が見ても、どこで測っても、いつ測ってもできるというのが良い診断方法だと思っているので、そういう意味ではこのバイオマーカーは有用ではないかなと。共通言語としていいということで、診断に関してこの二つの心不全マーカーを測ることは大きいのかなと思っています。
一方で、BNP、NT-proBNPの課題は、治療マーカーとしてはちょっと弱いのです。それが低下していることが本当に予後を反映しているのかというと、そこが課題かなと思います。私もCANDLE研究をやり、プライマリーエンドポイントがNT-proBNPだったのですが、SGLT2阻害薬の予後改善効果をBNPで見るのは少し課題があるのかなと思っています。
それは今後の課題なのですが、診断に関しては間違いなく有用なマーカーですので、循環器内科以外の先生方が、これをうまく利用することで、隠れ心不全や早期の心不全を見つけていただくことは大事だと思っています。
Q7: このコンセンサスステートメントの今後の展望についても教えてください。
今回、ステートメントを作ったということに関しては、いろいろ良かった点があります。
このステートメントを作るに当たっては、糖尿病の先生方とわれわれは10回以上、かなり長時間議論しました。 それでお互いの考え方が深まったということもあるので、今後も合同委員会は継続しているので、またいろいろな活動をこの委員会でしていこうと考えています。
大事なことは、ステートメントを作るだけでは不十分で、これが広がっていく必要があるわけです。
だからぜひ多くの先生方に読んでいただいて、理解いただきたいというのが1点ですね。それから、これは日本のステートメントとして海外に発信する必要があるので、これは既に「Circulation Journal」とDIに同時掲載していますので、海外で日本のステートメントはこういうふうに考えているということは発信したわけです。
もう一つは、刻々と大規模研究は発表されて、どんどん治療が変わっていくわけです。3日前にもHFpEFに対する新しい大規模研究が出て、がらっと心不全治療が変わりました。だから、アップ・トゥ・デートな内容を更新していくことが必要ですので、今年の秋ぐらいから改訂版に向けて活動を始めて、来年の秋ぐらいにJCS・JDSステートメントの改訂版を作っていくことになると思います。
これは特にSGLT2阻害薬の最近の大規模研究がありますし、GLP-1レセプターのアゴニストに関しては、今回のステートメントに関しては、日本人のデータが少なかったということと、海外のデータも少なかったのですが、これに関してもかなりたくさんエビデンスが出てきておりますので、こういった記載も考えていく必要があります。
治療アルゴリズムに関しては、今回はかなりシンプルな記載でしたが、もう少し詳しいアルゴリズムをつくっていく必要があります。
それから、できるかどうか分かりませんが、当然循環器内科と糖尿病内科医だけでなく、やはり腎臓の合併症、脳梗塞の合併症も大事ですので、そういったところも少し入れた形のステートメントになればと思っています。