Dr James L Januzzi
Cardiologist, Massachusetts General Hospital. Prof of Medicine, Harvard Medical School
Dr David Sim
Cardiologist, Heart Failure Program Director, National Heart Center Singapore; Immediate past president of Heart Failure Society (Singapore)
 

FAQ:心不全管理におけるNT-proBNPの役割

心不全の管理におけるNT-proBNPの役割および利用
  • COVID-19におけるヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の役割は何ですか?

    Dr Januzzi:COVID-19では、心臓の観点から様々なかたちで徴候が現れることがあります。中でも心房細動がよくみられ、心筋炎に関連するか否かを問わず心筋機能障害(やや起こりにくいとは言えますが、依然として発症する人もいれば発症しない人もいます)やストレス心筋症がみられます。このほか、虚血性心疾患が誘発され、他の機序によって、COVID-19の重度の患者さんのかなり高い割合でトロポニン上昇だけでなくNT-proBNP上昇も伴う心筋障害の徴候が見られます。

    重篤ではないCOVID-19の患者さんにNT-proBNPの上昇が認められることがありますが、これは当該患者さんが重症化するかどうかの予測には役立ちません。一方、症状が悪化しやすくなってきている患者さんでは、経時的にその値が上昇するため、入院中にモニタリングすることは有用です。急性心不全やCOVID-19など、心臓の一次診断で来院する患者さんが増えていますが、NT-proBNPは依然としてこれらの患者さんの診断にも用いることができ、これは心強い事実です。つまり大事な点として、COVID-19における心不全の診断においてもNT-proBNPが利用できるのです。

  • 診断の観点から経験をお聞かせください。駆出率の保たれた心不全(HFpEF)では、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)をどのように利用しましたか?

    Dr Januzzi: 中年者のNT-proBNP正常値は20 pg/mLまたは30 pg/mLであり、おそらくそれほど高くありません。患者さんのNT-proBNPが300 pg/mLで、息切れ、肥満およびある程度の浮腫を呈する場合、HFpEFである可能性が非常に高いです。HFpEFの患者さんの診断は難しくなりがちで、診断には身体診察に加えて、ギャロップリズムの聴取、肺の聴取、頸静脈の読影ならびに心エコー検査が必要となることがあります。診断がより難しくなりうることから、HFpEFは極めて困難を伴う集団だと断言できます。

     

  • 糖尿病患者のリスク特定を目的としたナトリウム利尿ペプチド検査の役割は何ですか? また、患者さんに投与する薬剤の決定に役立ちますか?

    Dr Sim:アジアでは特に、「糖尿病のX年後にNT-proBNPの測定を開始すべき」というような明確なガイドラインはありません。従来、糖尿病についてはHbA1cを確認していき、患者さんが冠動脈疾患や心不全を発症するまでは経過観察となります。治療は通常のスタチン、アスピリンおよび心不全薬の投与が開始されますが、この段階では患者さんはステージCの心不全となっているため、少し遅すぎる可能性があります。

    このような糖尿病患者でステージAおよびステージBの心不全を拾い上げるには、思考のパラダイムシフトが必要で、これに関して、バイオマーカーのNT-proBNPに目を付けることは、興味深い方法の1つです。そこで、APAC地域でADOPT試験が開始されました。ADOPT試験では、明らかな心血管疾患のない糖尿病患者を対象にNT-proBNPを使用した観察が行われています。NT-proBNPが高値の患者さんは、将来のイベントリスクが高い重症患者グループとなります。この試験では、この患者グループに対するSGLT2阻害薬の使用、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬およびβ遮断薬によるアップレギュレーションが将来のイベントリスク低減に役立つ可能性を証明することを目的としています。

    Dr Januzzi:別の試験であるPONTIAC試験はこれと全く同じデザインですが、NT-proBNPが125 pg/mL超の糖尿病患者を対象に、治療強化と通常治療の比較を行っています。

    CANVAS試験では、心不全の既往がある患者さんとない患者さんの間で、ベースライン時のNT-proBNP値が記録されました。試験の結果、両グループ間で大きな重複が認められました。CANVAS試験のかなりの割合の患者さんが、おそらくステージBの心不全を有していたものの認識していませんでした。これらの患者さんは、糖尿病に平均5年間罹患しており、心臓のリスク因子を有していました。CANVAS試験のアウトカムの判断については、125 pg/mLに応じたアウトカムが使用されており、これはADOPT試験およびPONTIAC試験で使用されたカットオフ値と同じでした。NT-proBNPが125 pg/mL未満の患者さんと比較して、125 pg/mL超の患者さんでは、心不全による入院のリスクが5倍を超えることが観察されました。 これは糖尿病患者をスクリーニングすべきとする米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の推奨を裏付ける非常に重要な知見です。そのため、心血管イベントリスクのある糖尿病患者には、測定を行うことが推奨されます。

  • 急性心不全が改善し帰宅する患者さんの退院計画におけるヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の役割は何ですか?

    Dr Sim:NT-proBNPの1回限りの測定は、連続測定ほど有用ではありません。ある患者さんについて、最初は高値だったのが、退院時および退院1ヵ月後時点で数値が低下していることが示されれば、正しい方向に進んでいることが確信できます。一方、入院時に1回だけ測定した結果が高値を示していても、それだけで今後の正しい方向性を決定するのは困難です。特に若年患者さんの場合、最初にNT-proBNP値が極めて高値で、低下しない場合、実際には上昇傾向であることを示しています。結果的に、心血管異常が他にないか確認したり、薬剤が最適かを確認するために、さらに画像検査が行われる可能性があります。このグループでは心臓再同調療法(CRT)、さらには心臓移植や左室補助人工心臓を早期に検討します。最初の数値が5000 pg/mLで、数ヵ月後も5000 pg/mL弱の患者さんは死亡の有害な心血管イベントリスクが高く、今後12ヵ月の間に再入院リスクが非常に高くなります。

    Dr Januzzi: 入院している患者さんについては、退院前にNT-proBNPを測定して入院中に30%以上低下したかを評価し、その後、1~2週間後に診察室または自宅で再測定し、改善が継続していることを確認することが推奨されます。

  • 入院から退院までにヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が30%以上低下している患者さんでは、予後が良好であることが示されますが、肥満の患者さんにも、同じことが当てはまりますか?

    Dr Januzzi: 解析の結果、入院中の30%低下が持つ予後的な意義に対して肥満は影響しませんでした。 肥満はナトリウム利尿ペプチドを抑制しますが、肥満患者が心不全で入院した場合は大抵、値は高いです。この数値が想定ほど高くないだけで、低下に関してはほぼ同じです。

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