Dr James L Januzzi
Cardiologist, Massachusetts General Hospital. Prof of Medicine, Harvard Medical School
 

CANVAS試験:NT-proBNPと心血管疾患(CVD)リスクの低減

KEY TAKEAWAYS

  • CANVAS試験では、2型糖尿病患者のうち心不全の既往がある患者とない患者で、ベースライン時のヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)値の分布を比較しました。その結果、NT-proBNP値の分布はほぼ同じであることが観察され、心不全の既往がない2型糖尿病患者ではかなり高い割合で、心不全とその続発症のリスクが上昇していることが示唆されました。
  • このコホートでは、ベースライン時のNT-proBNP濃度が125 pg/mLを超える場合、心血管系、腎臓系、神経系の様々な合併症の強力な予後因子となりました。
  • CANVAS試験でSGLT2阻害薬を投与したことにより、NT-proBNP濃度が低下し、それが糖尿病患者の心不全リスクを低減する可能性があります。これはNT-proBNPが低値および高値でもいずれの患者にも当てはまりますが、NT-proBNPが高値の患者で絶対リスクの減少が最大でした。

CANVASプログラムについて簡単に説明してください。

CANVASプログラムは2つの試験で構成されています。プログラムの目的は、中等度から高度の心血管リスクがある糖尿病患者に対し、SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)による治療の役割を評価することでした。CANVASプログラムを実施した理由は、先行の糖尿病治療薬、特にチアゾリジン薬では、発売以降、心血管リスクの増加が実際に示されたためです。規制当局はこれを受け、心血管アウトカム試験(CVOT)で、新規の糖尿病治療薬を評価することを推奨しました。CVOTでは、主に主要評価項目である心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中に基づき、SGLT2阻害薬などの治療法をこうした症例で長期にわたり評価しました。

CANVASプログラムでは、心血管疾患が確定している患者または(複数のリスク因子を有する)心血管リスクの高い患者のいずれかを対象に、安全性の評価を目的として、SGLT2阻害薬(100 mgまたは300 mg)、プラセボ、標準治療の影響を比較しました。現在、CANVASプログラムでは、他のSGLT2阻害薬の場合と同様、複合評価項目である非致死的心筋梗塞、脳卒中および心血管死を減少させることが確認されています。特に、心不全イベントに大きく影響しました。結果として、心血管リスクのある2型糖尿病患者のリスクをバイオマーカーで特定できるかどうかや、これらの患者へのSGLT2阻害薬の効果を予測できるかについて、本試験に多くの関心が持たれました。

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解析の目的は何ですか。

今回の研究の目的は、CANVAS試験から得られたデータを活用することでした。CANVASプログラムの2つの試験(CANVASおよびCANVAS-R)のうち、CANVAS試験には実際にバイオレポジトリーがありました。そのため、CANVAS試験では、アウトカム予測における循環器バイオマーカー検査の役割を評価することができました。また、最長6年間の長期にわたる追跡調査では、NT-proBNPやその他バイオマーカーに関した治療の影響も評価することができました。

NT-proBNPの評価では、ベースライン時、1年後、6年後に測定を行いました。さらに、SGLT2阻害薬がNT-proBNP濃度に及ぼす影響を評価し、逆にアウトカムの観点から、NT-proBNPからSGLT2阻害薬に対する反応を予測できるかどうかも評価しました。

ここで重要なのは、最初の観察でベースライン時のNT-proBNP値の分布を検討したところ、大変興味深い所見が得られたことです。具体的には、CANVAS試験の患者でベースライン時に心不全の既往を報告したのは13%のみでしたが、心不全の既往がある患者とない患者でNT-proBNPの分布がほぼ同じだったことです。このことから、CANVAS試験では、心不全の既往の有無を問わず、心不全と診断されたことのない2型糖尿病患者の多くで心不全の発症リスクと心不全後の合併症リスクが高いことが分かりました。これは極めて重要です。つまり多くの糖尿病患者が、他の方法では気づかない可能性のある高いリスクを抱えているのです。 

この結果が臨床診療にどのような影響を与えることを期待しますか。

最初の観察で、CANVAS試験の患者の多くが自身では気づいていない心不全リスクを抱えていたことがわかりました。次に、NT-proBNP値に関するSGLT2阻害薬の治療効果を検討したところ、SGLT2阻害薬投与後の測定で、NT-proBNP濃度が低下していることがわかりました。この結果では、投与群でNT-proBNPが低下した一方で、標準治療群ではNT-proBNPが上昇していました。 

これは以下の2つのことを示唆しています。まず、糖尿病患者では経時的に心不全リスクが高まることです。そのため、プラセボ群ではNT-proBNPの上昇が見られました。また、この糖尿病患者集団にSGLT2阻害薬を投与すると、NT-proBNP濃度が低下することも示されました。この結果は、SGLT2阻害薬の投与がNT-proBNP濃度の低下を介した心不全リスクの低減につながることを示唆するものと考えられます。また媒介分析では、SGLT2阻害薬の投与により1年目までにNT-proBNP濃度が低下することが、その後の心不全リスク低減の予測因子となることがわかりました。

最終観察で明らかとなった極めて重要な点は、ベースライン時にNT-proBNP濃度が高いことは(この場合、125 pg/mLを超える濃度)、心血管系、腎臓系、神経系の幅広い合併症の強力な予測因子であり、調整解析で検討した各評価項目にわたって統計学的に有意な予測因子でもあったことです。

以上のことから、ベースライン時のNT-proBNPから心不全、脳卒中、心筋梗塞、死亡や、腎臓病の進行を含むその他合併症の発症リスクが予測されるとすれば、ベースライン時のNT-proBNP濃度が高いことはSGLT2阻害薬の効果の予測因子ともなり得るのではないかという興味深い問いに導かれました。特定のSGLT2阻害薬はこれらのイベントの多くを減少させることが知られていますが、これはベースライン時のNT-proBNPが高値の患者に当てはまる可能性があります。SGLT2阻害薬はNT-proBNPが低値の患者でもこれらのイベントを減少させましたが、NT-proBNPが高値の患者ではこれらのイベントの絶対リスクが最も高く、さらに高リスク患者と低リスク患者でSGLT2阻害薬の投与による相対リスクの低減は同程度であったことから、SGLT2阻害薬の投与による絶対リスクの低減が最も大きいのは、NT-proBNPが高値の患者であることが明らかとなっています。

以上をまとめると、SGLT2阻害薬、NT-proBNP、ならびにSGLT2阻害薬の心血管系、神経系、腎臓系イベントを減少させる効果との間に、興味深い相互作用があることが示唆されました。

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