高感度トロポニンを利用すると、男性の方が女性よりも99パーセンタイル値が高いことが確認できます。これは、男性と女性の心臓は形態が異なり、機能も異なる可能性があるため、生物学的に納得がいきます。しかし、性別カットオフの利用で実際に診断および予後が著しく変化することは一貫して示されていません。
また、いくつかの試験では矛盾する結果が示されました。TRAPID-AMI試験のサブスタディでトロポニンTの性別カットオフ値を用いたところ、女性では梗塞の診断が増加し、男性では梗塞の診断が減少したため、適切な診断の再分類には至らず、純再分類は極めて低いことが示されました。
予後については、性別カットオフを適用しても、適切な予後改善は認められせんでした。 逆に、この特定のサブスタディでは、女性に性別カットオフを用いることで、アウトカムが悪化したことが判明しました。私個人の結論として、性別カットオフを用いることはお勧めしません。意思決定をさらに複雑にするからです。バイオマーカーに基づく診断は、胸痛ユニットの医師にとってできるだけ簡便であるべきです。
女性と男性で99パーセンタイルが異なるため、私たちは性別カットオフ値の利用が臨床に影響を及ぼすかどうかを確認したいと考えました。そして、2,500名超の患者を対象にこの疑問を調べました。その結果、女性2名が不安定狭心症から急性心筋梗塞にアップグレードし、男性1名が非ST上昇型心筋梗塞から不安定狭心症にダウングレードしただけでした。
2,500名中3名しか再分類に至らなかったことから、生物学的に理論的な差はあっても、臨床的意義はないことが考えられます。