NT-proBNPは診断(特にルールアウト診断)に非常に役立ちますが、それに加えて予後予測に関しても重要な情報となります。これは心血管疾患のほぼすべての段階に該当します。
不調ではないものの何らかのリスクを抱え始めている方、例えば、少しばかり血圧が高い、ちょっとした脂質異常症がある、糖尿病や早期糖尿病気味である、あるいはこれらが組み合わさった状態であるという方には、今後心不全を発症するリスクがあります。
ステージAの心不全と呼ばれるこうした段階でも、NT-proBNP値には予測能が認められます。NT-proBNP値によって、その方に関する追加の情報が得られ、今後心不全を発症するリスクが上昇するのか、または低下するのかを知ることができます。
次に目を向けるのは、心臓の機能や構造に一定の変化が生じているステージBの患者となります。例えば、ある程度の左室肥大が認められる場合、あるいは比較的程度の軽い冠疾患のケースでは軽度の壁運動異常を認めたり、心筋の少なくとも一部への血液供給にある程度の不足があったりするなどの場合です。
こうした患者では症状が認められません。不調の自覚はないのですが、適切な画像検査を実施することで異常を検出することができます。この場合でも、NT-proBNPの情報を追加することで、リスクが高いのか比較的低いのか、安定にとどまるのか悪化するのかについて、はるかに優れた所見を得ることができます。
さらにステージCについてですが、これは明らかな心不全の症状を伴う段階です。運動耐容能が低下し、労作時の息切れがひどくなるなどの症状が現れます。また、ステージDでは重度の不調を呈し、息切れや疲労を感じずに何かをすることがほとんどできなくなります。こうした段階にある場合でも、NT-proBNPによって、リスクが高まっているのか激増しているのか、極度に高いのか中等度または比較的低くにとどまっているのかを知ることができます。
これはつまり、ペプチド濃度を連続的に追跡することによって、時間の経過とともにその患者が改善に向かっているのか悪化に向かっているのかを見通すための所見が得られるということです。このことは、臨床試験に関連した複数の大規模試験でよく説明されています。
Val-HeFT試験は、神経ホルモンのデータベースを有しているという点で、おそらく最良の試験です。この試験によって明らかとなったのは、治験で患者を募集し、試験参加時のNT-proBNP測定値が高値であった患者で4ヵ月後に再測定を行う場合、その4ヵ月間で数値が上昇するか低下するか、または同じ程度にとどまっているかによって、高リスクながら見通しは良いのか、それとも2年が経過するまでに死亡する可能性が高いのかという(占いのための)水晶玉のような優れた予測が得られることです。
1日目から4ヵ月目まで高値が持続していた場合、当該患者が2年以内に死亡するリスクは約4分の1であることが分かっています。ベースラインから4ヵ月目まで低値のままであった場合、このリスクは7%から8%程度です。しかし、興味深いことに、一方から他方へと移動した場合、つまり初めは高値であったものが低下した場合、ペプチド濃度の低下とともに予後が改善します。初めに低値であったものが高値となった場合は、ペプチド濃度の上昇とともに予後が悪化します。
こうしたことは全て、NT-proBNPの反復測定を活用すべき理由を裏付けるものです。患者さんの経過をモニタリングするために有用であることに加え、治療方針の策定にも役立つでしょう。