井上 健司先生
順天堂大学医学部附属練馬病院 循環器内科 准教授
 

アジアにおける0-1時間アルゴリズムのエビデンスについて DROP-Asian ACS 研究

KEY TAKEAWAYS

  • DROP ASIAN ACS研究は、通常診療と比較したときの、hs-cTnTを用いた0-1時間アルゴリズムの通常使用が、患者の転帰および救急治療室に来院した胸痛患者にかかる費用に及ぼす影響の定量化を目的としている。
  • 迅速アルゴリズムによって救急科の混雑が軽減され、より迅速なルールアウトを可能にすることで不必要な入院を安全に回避できるという仮説を評価し、これにより、救急科におけるhs-cTnアッセイの使用に対する臨床医の信頼を高められる可能性がある。
  • 井上健司先生によると、このアルゴリズムを使用した長年の経験の中で、ルールアウトした後に心筋梗塞や心血管死亡となった患者はいなかったという。

DROP-Asian ACS研究とは何か? またその目的は? この研究を開始する理由

DROP-Asian ACSは、20.5か月の間にアジア5か国11施設で胸痛を呈し救急科に来院した4,080例の被験者を組み入れる、前向き段階式クラスター間ランダム化研究です。 最初に、すべてのクラスターで、hs-cTnTを含むが0-1時間アルゴリズムを用いない現地の標準業務手順書に従った通常診療を適用します。 1.5か月ごとに、1クラスターを、hs-cTnTを用いた0-1時間アルゴリズムへの切り替えにランダムに割り付けます。 主要評価項目は、主要心血管イベント(MACE)の発現率としています。 非劣性を評価するため、MACEの差を推定しました。 非劣性マージンは1.5%と事前に規定しました。 有効性の副次評価項目は、医療資源の費用、救急科での滞在期間等としました。 本研究の目的は、通常診療と比較して、0-1時間アルゴリズムの通常使用が、患者の転帰および救急治療室に来院する胸痛患者にかかる費用に及ぼす影響を定量化することです。 本研究を開始する理由は、アジア諸国における0-1時間アルゴリズムのエビデンスが不足しているためです。

本研究でhs-cTnTを使用する理由

本研究でhs-cTnTを使用するのは、研究を開始する前から我々はhs-cTnT検査をすでに実施しており、hs-cTnTの使用経験が豊富であったためです。 hs-cTnTの使用開始後に、hs-cTnTとhs-cTnIを比較する機会がありました。 有意差は認められなかったが、hs-cTnTがわずかに優れている傾向が見られました。 これまでのところhs-cTnTの使用に問題はなく、それが理由です。

本研究は、救急科における胸痛患者の管理に関して、APAC地域の医師にとってどのように役立つか? 救急科と患者にはどのような利益をもたらすか?

救急科の混雑は深刻な問題となっており、アジアではカテーテル検査室の数が十分ではありません。 このアルゴリズムは、救急科の混雑を軽減する上で助けとなり、不必要な入院を回避できると考えています。 アジアの救急科には適しているでしょう。 患者にとっては、評価や治療のための待ち時間の短縮、ひいてはより高い満足度および容易な入院、患者転帰の改善を意味します。

救急科から患者を迅速に退院させるためのhs-cTnTを用いた迅速なアルゴリズムはどの程度安全か?

多くの公表文献があり、ルールアウト群におけるMACEの感度は約99%となっています。 大規模な研究では、高いNPVおよび低い30日死亡率によって、hs-cTnを用いた早期ルールアウトの安全性が確認されています。 ESC 0-1時間アルゴリズムはアジア人集団にも適用されており、同様のルールアウト実績があります。 一部の臨床現場、例えば血液透析、VAS等の患者の割合が多いところでは、低いPPV(ルールイン群におけるAMI偽陽性例の増加)がみられるかもしれません。 AMIのルールアウトは、救急科から患者を退院させることと同様ではありません。 臨床医は、退院やフォローアップの決定において臨床情報を考慮するべきです。 FRSまたはGRACEスコアの併用は、高リスク患者の特定に役立ちます。

ルールインはAMIの診断と同様ではありません。 迅速なルールインは、さらに調べるためAMIの可能性が高い患者を見分けるのに役に立ちます。 このアルゴリズムを使用した9年間の経験では、ルールアウトした患者の帰宅を認めた場合に、後にMIや心血管死亡があった患者はいませんでした。

本研究から学んだことは何か?また、その結果は近い将来、ACS患者の臨床管理にどのような影響があるか?

この研究から「学ぶであろう」ことは、おそらく、アジアにおける臨床診療の異質性です。 「学んだ」ではなく「学ぶであろう」とする理由は、データが閉じられており、結果が確認できず研究責任医師でさえも確認できないためです。 ACS患者へのアプローチの問題について学べるものと考えます。

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