高感度心筋トロポニン値に影響する臨床変数に関するESC推奨事項とはどのような内容ですか。
私たちにとって、トロポニン濃度の交絡因子はいつも悩みの種となっています。こうした交絡因子は、併存疾患によるトロポニン濃度の上昇に影響します。こうした併存疾患(や影響を及ぼす因子)には、高齢、基礎疾患としての構造的心疾患、慢性腎臓病および性別があります。
つまり、ベースラインのトロポニン濃度には性差があります。性別によって心臓のサイズが違いますし、機能的にも差があります。99パーセンタイル値も、男性より女性の方が低くなっています。しかし、性別のみに限らず、すべての交絡変数を用いてベースラインの差を補正しようとすると、非常に複雑なアルゴリズムになってしまいます。これでは救急科の担当医師が管理することができません。そこでESCは、併存疾患や性別に関するカットオフを除外し、共通の総合的なカットオフを採用することを決断しました。 これは勇敢で素晴らしいアイデアだと思います。これは一般的な心筋梗塞の定義や国際臨床化学連合(IFCC)の推奨事項と多少ながら矛盾しており、一部のトロポニンIの添付文書や米国のトロポニンTの添付文書に記載されている情報とも多少異なっています。しかし、これによって状況が非常にシンプルになります。さらに言えば、併存疾患を抱える患者ではベースライン値よりも濃度の変化の方がより重要であると私は考えています。したがって、末期腎不全または重度の慢性腎臓病の患者に梗塞、もしくは不安定狭心症または非心臓性胸痛が生じているかどうかを判断する必要がある場合、ベースライン値ではなく、変化量(Δ変化)を確認する必要があります。この点は非常に重要です。特定のベースラインカットオフを省略すれば、当然ながら、Δ変化の役割がより重視されることとなります。