Dr Antoni Bayes-Genis
Heart Institute Director, Hospital Universitari Germans Trias i Pujol, Barcelona, Spain
 

Peptide for Lifeイニシアチブとは?

KEY TAKEAWAYS

  • Peptide for Lifeイニシアチブは、欧州の病院全体、特にナトリウム利尿ペプチドの利用が不十分な国において、急性心不全を正確かつ適時に診断するために、ガイドラインで推奨されているナトリウム利尿ペプチドへのアクセスを改善するステップです。
  • 救急科で急性心不全診断に、脳性ナトリウム利尿ペプチド (BNP) またはヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント (NT-proBNP) を使用することは救命、時間の節約およびコスト削減に役立つ可能性があります。
  • Peptide for Lifeイニシアチブは、心不全協会 (HFA) および各国の心不全学会と連携し、国および施設のコーディネーターが共同で地域レベルで実施します。

Q1. 「Peptide for Life」イニシアチブとは? このイニシアチブの主なステークホルダーは誰ですか?

Peptide for Lifeイニシアチブは、欧州全体で、急性心不全診断に対するナトリウム利尿ペプチド使用を等しく利用できるようにするための行動を呼び掛ける取り組みです。

一貫した科学的エビデンスと臨床ガイドラインでの最優先推奨事項を踏まえ、ガイドライン実施における具体的な障壁を特定し、急性呼吸困難患者の大多数が救急科で確実にナトリウム利尿ペプチド検査を受けられるようにするための措置を規定する戦略を構築する時期が来たと感じています。鍵となる救命戦略を早期に開始するためには、適時かつ正確な診断が極めて重要であることはよく知られています。つまり、ナトリウム利尿ペプチドにより、臨床医は最良の診断および治療戦略をより迅速に選択でき、より自信を持って患者さんをトリアージできるようになります。

このイニシアチブの主なステークホルダーは、欧州心臓病学会 (ESC) 、HFA、各国の心不全学会、体外診断用医薬品企業、そしてもちろん医師と患者さんです。

Q2. なぜこのイニシアチブを実施したのですか? 対処しようとしているギャップは何ですか?

急性心不全の診断では、ナトリウム利尿ペプチドの使用に関する科学的エビデンスが最も頑健です。実際、ナトリウム利尿ペプチドの使用は現在、ESCおよび米国心臓病学会/米国心臓協会の臨床診療ガイドラインの適応におけるクラスI、エビデンスレベルA(クラスI A)として組み込まれており、これは国際ガイドラインで最も高い推奨です。

それにもかかわらず、最近公表されたHFAのアトラスでは、欧州全体で、救急科でのナトリウム利尿ペプチド使用度にかなりのばらつきがあることが明らかになりました。HFAアトラスによると、救急科でナトリウム利尿ペプチド検査が可能な病院の中央値は、人口100万人あたり3.858施設でした。しかし、驚くべきことに、国内の全救急科でナトリウム利尿ペプチド検査を利用できると報告した国は、ESCのいずれの国においても当てはまりませんでした。報告によると、ドイツでは、救急科でナトリウム利尿ペプチドを使用している病院が100万人あたり19.82施設で、中央ヨーロッパおよびスカンジナビアを含めた中で最多、一方、緊急を要する場で使用が少ない国はキルギスタンおよび北マケドニアで人口100万人あたり0施設、それに続くロシア連邦では救急科でナトリウム利尿ペプチドを使用する病院は人口100万人あたり0.02施設でした。旧ソ連および南東ヨーロッパの国々も、同様に低いことがわかりました。

こうした現状を踏まえ、Peptide for Lifeイニシアチブは、ナトリウム利尿ペプチドの使用が少ない国で数を増やすことを意図しています。

Q3.  このイニシアチブは、急性心不全患者にどのようなメリットをもたらしますか?

これは非常に重要な質問です。なぜなら、救急科受診時に呼吸困難を有する患者さんは、NT-proBNPに支持された戦略により、初回入院が14.5%、循環器科への入院が16%、集中治療室への入室が12.5%、救急科の再受診が3.2%、病院の再入院が21.6%それぞれ少なくなるというエビデンスがあるからです。

また、現在のデータでは、ナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPの使用により、平均入院管理費用が10.3%減少し、救急科および病院での滞在/入院期間が短縮することが示されています。

そのため、救急科での急性心不全診断の補助としてBNPまたはNT-proBNPを使用すると、救命、時間の節約およびコスト削減に役立つ可能性があり、これは患者さんのために好ましいことです。

Q4. このイニシアチブを地域で実践する構想について教えてください(これを担うステークホルダーも含め)。このイニシアチブの行動喚起は何ですか?

このイニシアチブの実施は、おそらく地域レベルで、また国および施設のコーディネーターによって手配されます。

当初は、国および施設のコーディネーターがHFAおよび各国の心不全学会と連携して、教育活動および臨床症例メンタリングを実施する予定で、これには適切な臨床診療を特定するためのフォローアップ調査も含みます。例えば、第1段階では、理論的背景、臨床症例のディスカッション、特定の症例シナリオに対する直接的なメンタリングに関するオンラインウェビナーを実施し、これに1ヵ国につき1~3施設参加してもらうことを想定しています。これは、国と施設のコーディネーター、ならびにナトリウム利尿ペプチドの専門家の間で3~6ヵ月間行われます。専門家は、HFAのバイオマーカーワーキンググループのメンバーまたは同国、同地域から招聘した他の組織の専門家である場合があります。

最初の試みは、2021年に南東ヨーロッパ諸国、特にシリア、クロアチア、ボスニア、ヘルツェゴビナ、北マケドニア、モンテネグロおよびスロベニアで実施されました。一部の国で実施しましたが、英国ではすでに多くの関心が寄せられており、スペインも同様、またアジアを含め、あらゆる国で現地のPeptide for Lifeイニシアチブの実施に関心が寄せられているようです。そのため、Peptide for Lifeイニシアチブは、ナトリウム利尿ペプチドの使用度が低い世界中の地域に油膜のように広がると想定しています。

Q5. なぜこのイニシアチブは「Peptide for Life」と呼ばれるのですか?

20年前に欧州心臓病学会が立ち上げた「Stent for Lifeイニシアチブ」を模倣する試みとして、「Peptide for Life」のロゴが発表されました。「Stent for Lifeイニシアチブ」は、急性心筋梗塞 (MI) の治療におけるステント留置術の普及を促進すべく開発され、ST上昇型急性心筋梗塞 (STEMI) 治療における全国および地域のネットワークを構築するのに役立ちました。

特定のブランドとロゴでキャッチーな名前を付けることで、より実践しやすいものになるだろうと考えました。また、ペプチドの使用が命を救うことを皆さんに覚えてほしい、という意味を込めて、この名称にしました。

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