Dr James L Januzzi
Cardiologist, Massachusetts General Hospital. Prof of Medicine, Harvard Medical School
Dr David Sim
Cardiologist, Heart Failure Program Director, National Heart Center Singapore; Immediate past president of Heart Failure Society (Singapore)
 

FAQ:NT-proBNPと心疾患治療薬との関連

NT-proBNPと心疾患治療薬との関連
  • 心不全薬はヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)自体に定性的な影響を及ぼしますか?

    Dr Januzzi:特定の治療法により、当該バイオマーカーのアミノ末端部分のグリコシル化の量が変化することがあります。これにより、測定値が変化するだけでなく、代謝が変化して、心不全状態が改善する可能性があります。これについては理解を深めなければならないことが沢山あります。

  • 急性心不全患者では、SGLT2阻害薬の投与をいつ開始すべきですか? また、急性心不全では、こうした新しい2種類の治療薬とネプリライシン阻害薬をどのように併用すべきですか?

    Dr Sim: 急性心不全に対するSGLT2阻害薬の使用を検討する治験が進行中です。この結果は数年後に判明する予定です。急性心不全では(PIONEER–HF試験のデザインも同様ですが)、最初の24~48時間後に血行動態、血圧の観点から安定化した患者さんには、いかなる変力物質も使用せず、また利尿薬の静脈内投与を中止します。重要なのは、急性腎障害が消失していることであり、その時点で薬剤を開始できます。シンガポールでは、退院後に死亡リスクや30日以内の再入院リスクが高まるため、退院直前に患者さんを診察し、β遮断薬、MRA、ARNiおよびSGLT2阻害薬(4本柱による治療)を渡すことが一般的です。加えてアジアでは、待機リストが非常に長く、30日以内に患者さんが再受診することはほぼ不可能なため、この4種類の投薬を開始することが必須です。治療を最適化し、退院後の脆弱な時期に患者さんを守ることが極めて重要です。

  • ある患者さんにARNiまたはSGLT2iのいずれを投与すべきかの判断において、症状は気にせず、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)のみを利用すべきですか?

    Dr Sim: 診療では、症状とNT-proBNPの両方を考慮に入れる必要があります。症状は無視できませんし、患者さんの病歴を聴取するのに1円もかかりません。これは全く難しいことではありません。NT-proBNPの測定は、主に2つの理由で実施します。1つには、症状に加えてNT-proBNPを測定することで、予後に関する詳細な情報が得られるからです。また、特にアジアでは多くの患者さんが症状を軽視する傾向があるためです。

    心不全を長年患う患者さんの中には、機能状態がII度やIII度でも、もはや正常だと思い込む方がいます。症状は時折、やや主観寄りになることがあります。このような場合に、より客観的なNT-proBNPが非常に役立ちます。ご存知の通り、全ての薬剤がNT-proBNPに対して同等に作用するわけではありません。これは、SGLT2iとARNiがNT-proBNPの各四分位値に対して異なる作用を示すと考えられていることからも分かります。VICTORIA試験の結果によると、ベルイシグアトに関しては、8000 pg/mL未満の特定のサブグループのみが良好な反応を示すようでした。つまり、8000 pg/mL超では、全く反応しない可能性があります。現在利用可能な7~8種類の異なる薬剤クラスを患者さんに投与することは現実的ではないため、どの患者グループでベネフィットが得られるかを判断する上で、NT-proBNPサブグループを今後のために利用することは極めて有用です。合理化を図ることで、最もベネフィットが得られる患者さんを見極めることができるようになります。昨今、多くの国で費用対効果が非常に重要視されていますが、こうした方法を用いることで、高価な薬剤を患者さんに処方する理由が説明しやすくなりました。

  • 駆出率低下を伴う心不全について、治療目標はありますか?

    Dr Januzzi:駆出率低下を伴う慢性心不全の場合、目標は1000  pg/mL未満です。1000 pg/mL未満の数値は、心室リモデリングが改善し始めたことを示しています。外来での慢性心不全は、この数値が目標となります。

    入院中の心不全管理の場合、入院患者さんの数値には大きな幅があります。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の生物学的変動は30%(の変動)です。入院している場合、限られた時間でNT-proBNP値1000 pg/mL未満を達成することは困難ですが、30%低下すれば良い兆しと考えられます。診療所や外来では、厳格な絶対的目標として1000 pg/mL以下にすることが推奨されます。

  • 慢性心不全と急性腎障害を有する患者さんでは、どのようにヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)ガイド下治療を用い、どのようにNT-proBNPの上昇を予測すべきでしょうか?

    Dr Sim:シンガポールでは、救急外来の患者さんの受け入れ時にはほとんどの場合、NT-proBNPを測定します。 救急医はNT-proBNP測定について、結果を迅速に得られるよう、かなり積極的に依頼します。

    肺炎や急性腎障害がある場合、これらは確実にNT-proBNPの結果に影響を及ぼします。それでもなお、NT-proBNPの測定により患者さんを常時評価する上で多くの情報が得られるため、当該測定は依然として有用です。

    Dr Januzzi: 急性腎障害は急性の体液過剰を引き起こし、NT-proBNP値の上昇をもたらす可能性があるため複雑です。また、腎機能の悪化により毒素が蓄積して心筋に負荷がかかりトロポニン上昇を引き起こしたり、心筋機能障害からNT-proBNPの上昇を来す可能性があります。さらに、腎臓はNT-proBNPのクリアランスの約20~25%を担っています。急性腎障害を来した患者では、NT-proBNPが上昇します。この上昇は、予後を十分に予測するものです。急性腎障害患者の中にはNT-proBNPが上昇しない方もいますが、こうした結果が得られた場合は、むしろ安心できます。

    サクビトリル/バルサルタンおよびSGLT2阻害薬の使用に関連して腎機能が改善することに加え、DAPA-CKD試験のデータでは、予後をさらに改善し、腎臓を保護するために利用できるいくつかのツールが提示されました。急性腎障害患者を対象としたCANVAS試験では、NT-proBNPに加えて、IGF結合タンパク質-7(IGFBP-7)を含む他のバイオマーカーも検討されました。 IGFBP-7は、インスリン様成長因子結合タンパク質ファミリーに属するバイオマーカーです。ただし、その主な役割は、線維症の組織リモデリングです。また、心不全だけでなく、腎疾患とも関連しています。IGFBP-7はCANVAS試験で検討した結果、心不全の発症のみならず、慢性腎臓病の進行の極めて強力な予測因子であることが判明しています。

    サクビトリル/バルサルタンにより、NT-proBNPは最大レベルで低下します。これはおそらく、これらの薬剤が他のナトリウム利尿ペプチド(おそらくANP)を増大させる作用機序を有することから、結果的にNT-proBNPが低下するためです。このほか、NT-proBNPを劇的に低下させる心不全の治療法に、心臓再同調療法(CRT)があります。 サクビトリル/バルサルタンとCRTは、NT-proBNPを極めて大幅に低下させます。

     

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